九州在住のフリーペーパー愛好者・昌江瑠さんに寄稿していただきました。今回は「フリーペーパー×アート」の話です。是非、本文をお楽しみください!

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画像:かごしま文化情報センターHPより

Arts Crossing」はかごしま文化情報センター(以下、KCIC)が企画・制作、編集し発行するフリーペーパー。文化施設が発行する紙媒体に対し、イベント情報案内等の広報パンフレット的なものという先入観で見てしまいがちだが、同誌には良い意味でその既成概念を裏切られる。

Arts Crossing」の表面はアーティストやクリエーターによるデザインワーク、裏面はKCICの最新情報を掲載している。KCIC自体が美術・音楽・伝統芸能の3ジャンルを中心にした情報発信を目的に設立されており、アート誌を思わせるデザイン構成が目を引く。ローカルから発信する文化に注目し、地方の現代アート情報のみならず、鹿児島県と他地域とのコラボから見えてくる県民気質や他地域在住のアーティスト視点から見た鹿児島の伝統芸能などが発信されている。

最新号である5号では表面にアーティストのあいだだいや氏を起用。「地域のシンボル桜島の火山灰が降り積る鹿児島と雪が降り積もる青森の人々の間で、つもるはなしをしてみました」と称して、空から降り積る灰と雪をとりまく両地域の人々の日常を描き出した。

その手法はインターネット上の掲示板サイトで良くある「○○なんだけどなんでもきいて?」のスタイルで行われた会話をそのまま再現。例えば、鹿児島の人から「雪かきは年に何回くらい必要ですか?」、青森の人から「桜島が噴火するときはドカンと鳴ったりするのですか?」等々、ユニークで面白い。ほうきやスコップで両県民のアイコンもデザインされ、「フリツモ」新聞と称するスタイルで会話内容か掲載されている。

鹿児島ではローカル局が気象情報のなかで「降灰予報」を放送しており、家庭では掃除をして集めた灰を専用の黄色い袋(こくはいぶくろ)に詰め、自治体が収集車で回収する。やっかいな面がある一方、お土産品として灰の缶詰などの商品も販売され恩恵も受けている。そんな灰ありきの生活が日常の鹿児島で、桜島に「大人しい」とか「元気だなー」などと愛情を持って言う人々。「鹿児島の人々にとって、桜島は、ある種のキャラクター」というあいだ氏のコメントが冴えている。

KCICでは「KCIC BOOKSアーティストシリーズ」として国内外で活躍するアーティストと電子書籍を制作しているが、「Arts Crossing3号の企画で松本弦人氏とコラボした「カゴシマ トーキョー断片」が電子書籍として発刊。第5号でのあいだ氏との企画も「フリツモ」および「触れるフリツモ展覧会-灰・雪まみれの往復書簡-」と題した電子書籍となり、公式サイトで213日から無料公開されている。

アーティストが地域と関係し、創作された「作品」がフリーペーパーや電子書籍として公開される。今後もこの「Art Crossing」から発信される創作活動に注目したい。


発行元情報はこちら
Arts Crossing



■この記事を書いた人
 
sorami 昌江 瑠(まさえ りゅう)

 九州在住のフリーペーパー愛好者。

 古本やフリーペーパーと共に色々な所へ出張しています。



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